「石巻に遊びに来る?」
この言葉をかけてもらってから、かれこれ1年半が経過した。
もうずいぶんと時間が経っているので、旅の細かな記憶は正直かなり抜け落ちているのだが、それにも関わらず会社の先輩が掛けてくれた冒頭の言葉は、今でも僕の中で「光」を放っている。
会社を辞めたいという想いを抱きながらも現状の生活を捨てることに踏ん切りがつかず、かといって何か特別な努力をして状況を変えようとしているわけでもない。
そうやってだらだらと日々を過ごしていた当時の僕にとって石巻への誘いは、なぜだか自分を救い出してくれる“蜘蛛の糸”のように思えたのだ。
先輩は1泊2日(お互いの予定の兼ね合いで)の大まかな旅程、東京から石巻への交通手段について教えてくださり、僕も仕事のスケジュールと自分の執筆速度を天秤にかけ、最短で石巻に向かえる日をはじき出した。
結果、翌日の夜に東京駅発終電の新幹線で仙台に向かいカプセルホテルで一泊し、次の日の早朝、JR仙石線で一時間半ほどかけて石巻駅に到着する…という弾丸旅行プランが誕生した。
「来ちゃいなよ!」「行っちゃいますよ?」というノリと勢いだけで話がどんどんまとまっていくのが実に爽快で、それだけでも心が晴れていくようだった。
そしてその日のうちに新幹線の予約を済まし、翌日、僕は久しぶりに本気になって仕事を爆速(我ながらすさまじい速さだったと思う)で終わらせると、いつもよりずっと重たいカバンを肩にかけて夜の東京駅へと向かった。
2019年2月24日の夜だった。