石巻旅行記5 ―旅の終わりと始まり―
人は、旅に多くを求める。
日常生活に嫌気がさした時、仕事に行き詰った時、何か新しい刺激を求めている時、人は旅に出る。
僕が石巻から東京に戻って一年程が経った頃、当時同じように仕事を辞めるか否かと悩んでいた後輩と話す機会があった。
そのなかで、自分自身の経験…Yさんの誘いで石巻を訪れたと伝えた時、その後輩は僕にこう尋ねた。
「石巻に行って、何か変わりましたか?」
後輩も同じように、今の自分の置かれている状況や心境を変え得るきっかけや転機を探していたのだ。
この質問をされた時、僕の頭には一瞬にして多くの風景が、音が、旅の中で考えたことが駆け巡った。
そして改めて、自分にとって石巻で過ごした短いながらも濃密な時間が、その後の自分にどう影響を与えたのだろうかと冷静に思考を整理してみた。
数秒後、僕の口から出てきたのは、こんな言葉だった。
「…分からない。
だけど、自分について、将来について、沢山考えることは出来た。
東京から離れて、Yさんに石巻という土地を案内してもらって、普段の生活では見聞きできないような風景、音、光、言葉、時間に触れた。
感じ方が、変わったというか…
それがすぐに、何の役に立つのかは分からない。
もしかしたら、結局俺はこれからもこの会社に居続けるのかもしれない。
でも、普段とは違う環境に身を置いてみて、何だか心が楽になったことは確かなんだ。
行く前と行った後では、心の風通しは良くなってる。
元気をもらったのかな。
自分がどんな決断をするにしても、「よしまたここから頑張っていこう」と、改めてそう思えるようになったのは確かだよ。
この答えが参考になるかは分からないけど。
俺は、石巻に行くことが出来て本当に良かったよ」
…僕の言葉を聞いて、後輩は何とも言えない表情をしていた。
期待に添えなかったかなと思いはしたものの、考えたことを正直に伝えるべきだと僕は思ったのだ。
旅が、現実をすぐに変えてくれるわけではない。
たしかに旅先での出会いが大きく現状を変えることも、可能性としてあるにはあるかもしれないが、それはまあ極々例外的な事例だろう。
ほとんどの場合、人は旅に多くを求め過ぎて、そして日常に戻ってからは結局自分を取り巻く状況が何も変わっていない現実を直視することになる。
しかし、僕は思う。
周りは変わっていなくても、自分の中では、確かに何かが変わっていると。
些細な心境の変化でも、旅の道中で得た小さな感動や、気付きや、ちょっとした発見でも。
普段とは異なる環境に身を置くことで、自分の心の動きや内面や思考を客観的に見つめなおす「きっかけ」というものに、必ずどこかで出会うことが出来るものだ。
そうして普段は日々の務めに忙殺されて考えることをしなくなっていたのが、あるいは考え方が強張っていたのが解きほぐされて柔軟になり、
その上で改めて今後どうしていこうか、自分は本当は何をしたいのだろうかと、フラットな精神状態で自分自身に向き合うことが出来る。
それが、旅の与えてくれるものの一つではないかと思う。
ちなみに、結果的にその後輩はまだ会社にいる。
ただ働き方というか仕事の内容はがらっと変わって、直接会うことはめっきりなくなった。
僕の言葉がほんの少しでも後輩に何かを伝えることが出来たかは分からないが、もし機会があればあのときのことを聞いてみようと思う。
今回、僕は約1年半前に訪れた石巻の旅行記を全5回にわたって記した。
本当はここまでに紹介した数倍もの場所を案内していただいたので、正直、全てを書ききったという感覚はない。
『石巻 まちの本棚』
『石巻市 復興まちづくり情報交流館・中央館』
『石巻ニューゼ』
『IRORI石巻 (ISHINOMAKI2.0)』
『まるか中央鮮魚』
『旧観慶丸商店』
等々、ここに記した以外でも数多くの場所を案内していただき、さらには宿の手配や予約までしていただいたYさんには、この場で改めてお礼申し上げます。
その節は、ありがとうございました。
いつかこうして文章を発表出来る場を設けたら、必ず石巻の旅行記を最初に書きたいと思っていました(1年半以上も掛かってしまいましたが…)。
また必ず石巻を訪ねさせていただきたいと思いますので、その際にはまたお会い出来たら光栄です。
貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。
…さて。
そろそろこのR’s Irohaにおける最初の旅行記を締めくくろうと思う。
ただ表題に「 ―旅の終わりと始まり―」とあるように、しばらくエッセイやカメラ・写真に関する記事を書いたら、また新たな旅について書いていきたい。
さすがにこのご時世なので、中々出かけるにしても色々と注意を払わなくてはいけないから、過去の旅についてまた読み物風に書いていくこともあるかと思う。
もちろん(体調と安全に配慮した上で)どこかに出掛ける機会があれば、写真とともに紹介していきたいと思うので、今後ともよろしくお願いいたします。
それでは最後に、今まで掲載しなかった写真、そして僕のお気に入りの写真を載せて終わろうと思う。
そこのあなた、ここまで僕の拙い文章と写真にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。